挑戦者たち ケーエムマテリアル社長 大山勉さん

省エネルギー仕様の研削材製造プラント 新工場稼働から1年経ぬ間に増産用工場を建設

環境対応可能な研削材の開発・製造に長年、携わってきたケーエムマテリアル(本社・千葉県市原市)社長の大山勉さん(62)。現在、広島県の生口島(いくちしま、尾道市瀬戸田町茗荷)で、造船所の跡地を借用して特許製品マグネタイト・グリッド(以下、MG)の製造工場の建設を進めている。

戻り錆を遅延させるマグネタイトグリット増産のため ブラスト粉じん抑制に対応 防食業界に貢献

「MGは、銅製錬メーカーが目的生産物として製造している原料・銅スラグをベースに、当社が製品の規格製造、供給しているものです」。2017年末。大山勉さんはJR尾道駅で記者と合流後、瀬戸田工場への道中、車を運転しながらMGの生産設備増強の背景を事細かに話した。

大山勉さん

ブラスト作業時の粉じんを、いかに抑制するか。大山さんはその解を、モイスチャー(湿式)ブラストに求めた。しかし湿式では戻り錆が発生する。

日本船舶技術研究協会の依頼を受けて、この問題を解決するために試作製造、開発の一端を担うことになった。

約十数年前から造船所、施工業者、装置メーカーなどと協力して修繕船用の湿式ブラスト工法の開発にあたった。その後、現状の戻り錆遅延の技術では、環境負荷低減が必ずしも万全ではないことが分かった。そのため大山さんは独自の考えで方針転換を行うことにした。各特許を調査して数年後、環境安全性をクリアした自社オリジナル製品MGを用いた「ミスト(モイス)ブラスト」(特許取得済)開発した。

MGは、「JIS Z 0312 ブラスト処理用非金属系研削材」の規格製品。銅を製錬する過程で、製鉱中の銅鉱石から銅分を抽出した後のスラグを急冷水砕し、グリッド形状(ひし形)に固化させたものに、マグネタイトベースを配合して戻り錆を遅らせる仕組み。工法は0・5~7L/分の少量の水を加えたブラストで粉じんの飛散をなくすもの。各社のブラスト装置に適合した研削材を製造することが可能だ。

「クレームに耳を傾けること」

大山さんは、13年3月にMGの特許を出願し、14年1月に特許庁から「新規性を認める」旨の連絡を受けて、同年4月に特許(特許第5512854号/商標登録 登録第5741900号)を取得した。

特許取得後、各地の造船所で試験施工を行った。実際の施工から問題点を解決する手法をとって、MGを実用化に向けて改良した。「施工側の課題を聞くには、要求事項(クレーム)に耳を傾けることが大切だった」と振り返る。

湿式工法へのニーズの高まりとともに、供給体制の構築を急ぐことになったが、課題が残された。MGの原料供給元2工場およびブレンド2工場がいずれも東日本に位置していたが、主要な客先となる造船所の8割が西日本に集中していたのだ。「東日本から運んでいたのではコストが合わない。西日本でMGの製造を行う要請があった」。

西日本での製造依託拠点を模索した結果、依託先が無いため自社での製造を計画することになった。原料は西日本の銅製錬メーカからの供給の当てがつき、MG製造工場の用地として生口島の瀬戸田町に800坪の土地を借用できた。

焼成用複列外熱キルン、定量供給装置、分級機、混合機、集塵機などのMG製造設備は、以前から取引先企業の有休設備を、将来の自社での製造を考えて譲り受けていたものを活用した。大山さんが自ら設備設計を行い、17年春に同所で月産500tの自動運転設備を稼働させた。

月750tに増産し、注文受注に応える

昨年末には、各造船所からの注文需要に応えられず、設備の効率化を求められたことから、新たな設備投資を開始した。昨年7月付で、本社所在地の県庁から「平成29年度第3回千葉県中小企業経営革新計画」の認可を受けて融資が下り、同地区瀬戸田町茗荷にある長谷川造船所の跡地、2000t級船舶が接岸・水切り(荷揚げ)及び製品の出荷ができる、プイラベートバース付きの土地2000坪を借用した。そのうち1000坪をMG生産設備用として再建設を開始。わずか1年以内に工場を新たに建設することを決断した。

これで生産能力は月産750t(150%)への増産を見込んでいる。大山さんは残り1000坪で新たな事業展開も考案中というが、結果的に短期間で同社資本金の10倍を超える設備投資をする企業計画である。

「最近、大型艦船の修理にも採用されたことや、国の支援もあり、未来を考えて投資をしました。MGは環境問題、じん肺、健康被害の抑制などに有効で、その観点から社会貢献ができます。その先に現在の企業継続と収益向上がついてくると信じています。造船分野を足がかりに、橋梁など陸上構造物の分野も視野に入れていきたい」。大山さんは、いつもと変わらない静かな淡々とした口調でその思いを語った。

※橋梁通信2018・5・1号掲載