大石久和氏① 「社会の基礎構造を作る公共事業」

「おかしいという声を上げた人がいたのか。1人もいなかった」

【前文】

「おかしいという声を上げた人がいたのか。1人もいなかった」。東京・四谷の土木学会講堂に、学会長である大石久和氏の鋭い声が、大きく響いた。4月18日、土木と社会を結ぶ学問「土木計画学」のあり方を考えるセミナーが終わりになる頃。定員120人がほぼ埋まっていた講堂は一瞬、凍り付いたような空気に満ちた。道路特定財源の一般財源化、道路公団の民営化など、「道路」という土木分野が攻められ続けた時代に、学者たちは異議を唱えず、国土交通省を応援しなかったことを大石氏は指摘したのだった。

でもその直後、「厳しいことを言ったが、皆さんより少し年上であることに免じて」と言葉を和らげ、笑みを浮かべたのが大石氏らしいところ。舌鋒と優しさを併せ持つ大石氏へのインタビューは、土木学会で、そして国土政策研究所で、刺激的な時間の連続だった。

大石久和氏

【本文】

 

まず政治家が重要性を認識して

 

――「公共事業」という言葉が意図的な意味合いで使われる状況はなお続いており、その必要性を社会に訴えようと橋梁通信は考えていますので、まず公共事業の基本的なとらえ方からお願いします。

大石 公共事業が実現するのは、インフラ・ストラクチャーという社会の基礎構造の形成です。社会には基礎構造が不可欠で、それがしっかりしていなければ、人々が基礎構造の上に作るアッパー・ストラクチャー、京都大学の藤井聡先生はスープラ・ストラクチャーという言葉を使いますが、個人や企業、顔見知りの仲間といったものが成り立つ安全・効率的で快適な暮らしを実現するための基礎ができません。それを皆の力で、皆のために、皆の努力で作り上げる公共事業という手段が必要なのです。だから、公共事業はあくまでも手段なのであって、それ自体が目的ではありません。ただ唯一、目的と考えられる場合は、今回のデフレもそうですが、内需が非常に縮んでいる、あるいは景気が後退していて、公共事業をやることによって雇用を増やし、資材の流通・流動を大きくして景気を刺激する、という意味で使われる時は、公共事業そのものがある程度、目的になります。

 

――フロー、ストックという言葉を聞きます。

大石 日本では今まで公共事業論が度々興ってきましたが、公共事業はフローの概念でしかとらえられていませんでした。公共事業というフローがインフラ・ストラクチャーというストックを作るのだ、という議論まで高まったことはほとんどありません。過去も、現在も、そうです。それが、私にとっては歯がゆいし、いらだたしいし、残念な思いです。

――諸外国では?

大石 諸外国が公共事業を議論する時の環境、状況は全く違うのです。例えばオバマさんはアメリカの大統領だった8年間に繰り返し公共事業の重要性を訴えていました。公共事業はふつう英語でパブリック・ワークスと言うのですが、オバマさんはそれを使ったことがありません。いつもインフラ・ストラクチャーと言って、その重要性を指摘したのです。それはオバマさんでだけでなく、イギリスもフランスもカナダもイタリアもスペインも皆、首脳がインフラ・ストラクチャーの重要性を語っています。ただ日本だけは政治家もメディアもインフラと言う言葉を使えません。そこが非常に残念です。

社会を支える基礎構造は政治が実現するものですから、まず政治家が公共事業の重要性をしっかり認識してほしい。それが、公共事業に対する私の思いです。

(続きは「橋梁通信」5月15日号でご覧ください)

 

【大石久和氏】

大石久和(おおいし・ひさかず)氏 1945年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。建設省(現・国土交通省)に入省し、道路局長、技監等を歴任した。現在は土木学会会長、国土技術研究センター国土政策研究所所長、京都大学経営管理大学院特命教授、全日本建設技術協会会長を務める。自然条件が他国より厳しい日本の「国土」をキーワードに、国と人のあり方をトータルに考える学問「国土学」を提唱した。著書に「国土学事始め」(毎日新聞社)、「国土と日本人」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「日本人はなぜ大災害を受け止めることができるのか―グローバル時代を生きるための新・日本人論」(同)など。