伊藤學回顧録⑨ 吊橋に鉄道走らせる 「大丈夫」

瀬戸大橋の上を列車が走る。今日では当たり前のような風景だが、実現するまでには基礎研究と部材開発の積み重ねがあった。揺れやすく、たわみやすい吊橋を列車が通れるのか。若き日の伊藤先生は、学舎の屋上に作った小屋で研究と実験に取り組んだ。

先見的な研究 平井先生の指示で

r――伊藤先生は1957年(昭和32年)秋、アメリカ・イリノイ大学留学から帰国し、再び恩師の平井敦教授のもとで大学院生(博士課程)としての生活が始まりました。ドクター論文のテーマは、吊橋の上を鉄道が通る場合、どんな問題があるかということだったと以前伺いました(回顧録⑤)。

伊藤 鉄道吊橋の実用性に関することでまとめなさいと、平井先生がおっしゃったのです。先生は、今の瀬戸大橋、鉄道と道路併用の長大吊橋を頭に置かれて、私にそれに関するいろんな問題を検討しなさい、と言われた訳です。

吊橋は非常にたわみやすく、揺れやすい構造物です。そこを重く高速の列車が走った場合にどういう現象が起きるか、それが私のテーマとなりました。

――瀬戸大橋は1978年(昭和53年)の着工ですから、ずいぶん、先見的な研究でした。

大学の屋上 小屋に吊橋の模型置いて

伊藤 先生は先を見通していらしたのです。

研究の裏づけを得る模型実験を行うために、大学の建物、今も橋梁研究室がある工学部1号館の屋上に小屋を建てました。吹きさらしでは困りますから、屋根もかけて、まあバラックのような小屋です(笑い)。その中に長さが10mもない吊橋の模型を置き、レールを敷いて、おもちゃみたいな(笑い)車を走らせる、そういう実験装置を作りました。

当時はまだ電子計算機がない時代です。理論的研究のための計算といっても手回しのタイガー計算機でした。四則演算しかできません。

――当時の研究環境が伺えます。

伊藤 そんな中で、今申しました理論解析と実験を行いました。私の結論は、吊橋の上を列車が走っても問題はない、問題はないけれども、ある程度は振動するから、その振動を設計に組み込まなくてはいけない―ということでした。

橋桁は設計する時、道路橋でもそうですが、車の重さのほかに、それが走ることで生じる振動によるプラスアルファ、専門的には衝撃係数と呼んでいますが、それを見込まなければいけません。

衝撃係数は、スパンが短いほど係数としては影響が大きくなりますが、長くなればほとんど問題はないとされていました。ただ、やっぱり吊橋となるとちょっと問題は別で、私の研究の結果でも、ある程度の衝撃係数を見込めば鉄道吊橋は問題がないという結論になりました。

今から思えばたいしたことではありませんが、それが私のドクター論文でした。

――先生が1974年(昭和49年)に出版した「海に架ける橋 本州四国連絡橋をめぐって」(日経新書)に、そのような趣旨が書かれていました。

伊藤 結論は大丈夫なのです。ただ、(以下、略)

(全文は「橋梁通信」8月1日号でご覧ください)