余話 護国寺から 8 石橋

日本道路協会の図書室を借りて調べごとをするうち、日本橋梁建設協会が編集した「新版 日本の橋 ―鉄・鋼橋のあゆみ―」(2004年)という本を偶然手にした。

本の内容は拾い読みでも勉強になったが、気になる文章を目にした。

(中略)

都内の寺に古い石の橋があるという。「案内板もないため知られざる橋となっている」という一節だ。

「護国寺から」シリーズは神社における橋の位置付けを追い、日本人にとって、橋は単に向こう側へ渡る道具ではなく、深い精神性が込められていたことをつづって来た。

それだけに、この一節を目にして、神道と違って仏教は橋に冷たいな、三途の川を渡るには橋が必要ではないかと、いきり立ったのである。

現地を後日訪れると、案内板があったので、ほっとした。「石橋(しゃっきょう)」と題し、現存する都内最古の橋とされること、参詣のための神橋だったこと等が書かれていた。

橋長3m強、幅員2m強。石の古びた味わいがなんとも言えない。今はもう人が渡れないようにしてあるが、かつては多くの人がこの橋の上を通ったのだろう。床版がすり減っている。

今は通れないから、石橋をじっくり見る場所は、近くの通路に架かる橋辺りがよろしい。他の参拝者も立ち止まるから、やはり古い石橋は人の心を引き付けるのだ。

いきり立つ必要もなかったと安心していたら、違った。

橋が架かる池にはきれいなコイがたくさん泳いでいる。参拝者は皆、石橋でなく、そのコイに見入っていたのだ。「コイにエサをあげないで」との看板も出ている。逆に言えば、エサをあげる人がいるから、注意の看板を掲げているのだろう。

その点では残念ながら、石橋はコイに人気を奪われた「知られざる橋」になっていたのである。