大石久和氏⑦ 「公共事業への理解を 『橋の絵』から」

大石久和氏シリーズの7回目。話題はメディアへの注文、家計と財政の違い、土木広報、読書の仕方、そしてキラキラネームと、多岐に渡った。とりわけ印象に残ったのは、こんな、熱い言葉だった。「この20年間、公共事業費を減らされ続けてしまった。もう、そんなことがあってはなりません」と。

メディア 自分の頭で考えて 何を書かせようと?

――公共事業のあるべき姿を伺ってきました。社会の中で公共事業の位置を確かなものにするには、メディアの役割が大きいと思います。

大石 メディアの人たちにはまず、公共事業がインフラ形成のプロセスでしかないことをよく理解し、そのうえで判断してほしいと思います。

それから、口幅ったいことを言うようですが、ぜひご自身の頭で考えてほしいですね。今は記者の数も減って、昔に比べるとはるかに忙しくなっています。発表モノを書くのに精一杯で、お気の毒ではありますが、この発表をした省は何か意図があるのではないか、われわれに何を書かせようとしているのか、ナーバスに考えてほしいと思います。

(公共事業費を削減し続けてきた)財務省のキャンペーンは、極めて強力です。大きな力を持っていて、出てくる情報の量も多いので、財務省に気を使わなければいけない面があるのも分かります。しかし、財務省がどういう意図で、この情報を、こういう加工形態でわれわれに流すのか、注意して、ご自身の経験と判断で記事にしてほしいですね。

家計と財政は違う

――財務省のキャンペーンとは、例えば?

大石 この前、新聞社の人に私が話したのは、「(国債で)国民1人当たり700万円の借金」という記事が出ていたが、これは借金ではなく、国民1人当たり700万円の債権を政府に対して持っているという意味だ、と。

財務省の目から見れば、確かに借金です。しかし、国債の流通を見れば、国民の債権、政府の債務なのですから、国民は国債という形で700万円の財産を持っているという表現が正しいのです。ですから、財務省はそう発表するけど、その通り書いていいのか、注意してほしいと、話しました。

――家計と財政は違うということですね。

大石 全部の新聞が混同していますが、家計と財政は違うのです。財務省がそう言うから書くのでしょうが、国民の皆さんに大きな誤りをもたらしています。

財政を家計に例えるのは間違いだと書いた新聞のコラムが話題になったこともあります。国と違って、家庭には徴税権はないし、通貨発行権もありません。両方持っている国と家計を一緒にするのがそもそも間違いだと書いてありました。

極めて単純なのは、家庭で、例えば大石家で10万円使えば、大石家から10万円消えていきます。しかし、政府がお金を使えば国民に渡ります。民間に行って、その中で回り始めます。お金が日本国から出て消えることはありません。こんな単純なことを考えても、家計と財政を一緒にすることは間違いです。

ところが、そういう説明が主婦の心を打つのです。なるほど日本国はそうなっているのか、わが家がそうであってはならない、と。

「お母さんをつかめ」

――その意味でも、公共事業について、国民にきちんと説明し、理解を得ることが大事だと思います。今年6月まで第105代会長を務めた土木学会も広報に努力しますが、どう評価していますか。

大石 土木広報には、土木工学を学んだ人以外の多くの方々も参画し、土木と暮らしについて、子供たちも巻き込んだ運動をしていただいていることは、土木学会の会長としても感謝していました。

ただ、それで土木やインフラに対する理解が十分に進んだかと言うと、かなり疑問な点があります。例えば、「土木の日」を制定して30年以上になりました。毎年、集中的なキャンペーンをしていますが、それを30年やってきて、土木に対する理解が以前に比べて相当進んだかというと、なかなか十分ではありません。

――なぜでしょうか。

大石 子供たちに作文を書いてもらったり、土木構造物の絵を描いたりしてもらったりするのなら、お母さんをつかみに行けと、広報のメンバーに話していました。

例えば、子供に橋の絵を描いてもらいました、上手に描けました、一等賞です、良かったですね、では全く広報になっていません。

お母さんに対して、あなたのお子さんが描いた橋があるおかげで、どれだけ病院が近くになったか、どれだけ買い物が便利になったか、どれだけ宅配の人が助かったか、それを分かってもらわなければなりません。

土木広報 進化と深化を 「助かった 橋のおかげで」

――橋の具体的な効果ですね。

大石 これを子供にわかれと言っても無理ですから、そのお母さんに、子供が描いたこの橋のおかげでこんなに多くの人が助かっているのだ、ということを理解してもらわないと。

そこまで「土木の日」の広報が行ったかというと、まだ十分でありません。つまりは、土木と暮らしの近さです。土木がいかに暮らしに近いものなのか。だからこそ国民の税金で提供しているサービスが、土木です。

国民の何らかの暮らしに行き渡っているのが土木だと、橋の絵を描くついでに、主権者であるお母さんに、もちろんお父さんもですが、理解してもらわなければなりません。

――絵を描く、その先を見据えた広報ですね。

大石 その点まだまだだと思います。自分の子供が絵を描いた橋が、なるほどそういう意味があったのかと分かってくれるお母さん、お父さんが増えたら、無駄な橋ばっかり架けて、といった話が流れたら、ちょっと待ってください、その橋で助かった人がいるでしょう、一方的な言い方はおかしいですよと、自分の頭で考えて言ってくれます。そうしたお母さん、お父さんを増やしたいですね。

土木広報は、「しんか」させなければいけません。ダーウィンの言う「進化」と、深くなる「深化」です。逆に言うと、それに成功しなかったから、この20年間、公共事業費を減らされ続けてしまった。もう、そんなことがあってはなりません。(以下、略)

(全文は「橋梁通信」8月15日号でご覧ください)