伊藤學回顧録⑪ 斜張橋 かつて中断 桁とケーブル 接続難しく

「斜張橋と吊橋はどう違うのか」。ある時のインタビューで、ふと口をついた素人臭い質問にも、伊藤學先生は懇切に説明してくれた。話は吊橋と斜張橋の形式、歴史など、幅広い分野に及んだ。伊藤先生から直接、基礎的な薫陶を受けるのだから、なんとも贅沢な時間である。独り占めではもったいないので、今回は特別編として、「吊橋と斜張橋の教室」をお届けする。

伊藤先生 「吊橋と斜張橋の教室」

――斜張橋は広い意味での吊橋の1種と理解するのは間違いでしょうか。

伊藤 「回顧録」は私のパーソナル・ヒストリーで、講義ではありませんから、数式などは使わない方がいいでしょう(笑い)。

橋床をケーブルで吊っているという観点から「吊橋の1種」は間違いではなく、一般的にはそう言われることも多いということです。ウィキペディアにも、斜張橋はケーブルで吊っているものだから「広義には吊橋の一種」と書かれています。

しかし、斜張橋と吊橋は設計理論上、原理的に違うのです。

吊橋の桁をみると、メーンケーブルに取り付けられたたくさんの垂直な吊り材(ハンガーロープ)で桁を上に引っ張り上げ、ケーブルに力を伝えています。

ところが、斜張橋の力のかかり方をみると、桁はケーブルの取り付け点で、バネの役をするケーブルによって斜め方向に支えられています。

――桁の支え方が違うのですね。

伊藤 それから、一般的に言って、吊橋はアンカーブロックというコンクリートの塊を地面に埋め込んだ重しが必要です。メーンケーブルの両端はこのアンカーブロックに定着させるので、ほとんどの吊橋は「他定(碇)式」と言われます。

これに対して、一端を地中に定着する場合を除き、斜張橋は「自定(碇)式」とされます。桁にケーブルを定着させるので、アンカーブロックがいりません。

(中略)

2つの形式 混合型も

――2つの形式は全く疎遠なのですか。

伊藤 先にも言ったように、自定式、他定式というのは両方にあります。清洲橋は自定式の吊橋でアンカーブロックがありません。両方が混じった形式もあります。

アメリカのケーブルの大御所・ローブリンが作ったニューヨークのブルックリン橋は吊橋ですが、斜張橋的な要素も入れてあります。彼はその前ナイアガラに鉄道と自動車と両方走れる2階建ての橋も作ったのですが、それも吊橋と斜張橋を組み合わせたような橋です。彼には先見の明がありました。

ロンドンのテムズ川に架かるアルバート橋も、吊橋に斜張橋のようなケーブルも加えています。

最近では、フランスのミシェル・ヴィルロジェが設計した第3ボスポラス橋が、そうです。吊橋と斜張橋を組み合わせて、1400mのスパンを一またぎする橋を作り上げました。

――吊橋に比べた斜張橋のメリットはどういう点でしょうか

伊藤 よほどスパンが長くなければ、一般的に斜張橋の方が経済的に設計できます。基礎から橋全体を含めたコストが安く済むのです。

また、斜張橋の方が結構いろいろな形のものができます。デザイン的な多様性です。塔の形ひとつとっても、いろいろなものがある。曲った橋も作れます。首都高速道路のかつしかハープ橋)はカーブした橋です。歩道橋などではカーブした吊橋もありますが、大きな橋をカーブさせることは、吊橋では難しい。ケーブルで吊っていますから。

私は景観、デザインにも関心がありましたので、斜張橋は面白いな、発展の余地があるなと思っていました。

(全文は「橋梁通信」9月1日号でご覧ください)